【104】湊 かなえ『告白』
「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」我が子を校内で亡くした中学校の女性教師によるホームルームでの告白から、この物語は始まる。語り手が「級友」「犯人」「犯人の家族」と次々と変わり、次第に事件の全体像が浮き彫りにされていく。衝撃的なラストを巡り物議を醸した、デビュー作にして、第6回本屋大賞受賞のベストセラーが遂に文庫化!“特別収録”中島哲也監督インタビュー『「告白」映画化によせて』。(「BOOK」データベースより)
愛する娘を殺された母の復讐は、一度は夫に阻止されたが、別の形でそれぞれ果たされた。復讐は復讐を生むだろう。繰り返される悪夢。百歩譲って少年Aがたとえ更生しても死んでいった人間は戻らない。
所詮、大人は大人のものさしでしか、子供の世界をはかることができないのだ。(p.209)
【103】伊坂 幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』
嘘を見抜く名人、天才スリ、演説の達人、精確な体内時計を持つ女。この四人の天才たちは百発百中の銀行強盗だった…はずが、思わぬ誤算が。せっかくの「売上」を、逃走中に、あろうことか同じく逃走中の現金輸送車襲撃犯に横取りされたのだ!奪還に動くや、仲間の息子に不穏な影が迫り、そして死体も出現。映画化で話題のハイテンポな都会派サスペンス(「BOOK」データベースより)
まさしく『映画向きエンターテイメント小説』ですね。なんてったってタイトルがいいじゃないっすか!
「このことから何を学べばいい?」響野が手を広げる。「教訓は何だ?」「『世の中、強盗は自分たちだけだと思っていたら大間違い』ってことだ」成瀬はもう一度車の去っていった方角に目を向けた。(p.108)
銀行強盗も、市役所の公務員も、生きていくのに大切なのはイマジネーションだ。(p.118)
「本に書いてあることはたいてい、でたらめだ。目次と定価以外全部嘘だ」(p.131)
人の上に立つ人間に必要な仕事は、「決断すること」「責任を取ること」の二つしかない(p.157)
私の上司に言ってやってほしいセリフですね。
「感じたこと全部を、わざわざ口に出す必要はないんだよ。誰もが心の中で思っているだけならば、世界は平和だ」(p.169)
愛をささやくことが許されなければ未来さえもないですね。
「あれはな、事実上の決勝戦って言われてたんだ」「一回戦で負けた子だってきっと同じことを言ってるよ」(p.226)
「世の中には毎秒何人もの人間が死んでいってるんだ。いちいち驚いていられるか。むしろ誰も死ななくなったら、そっちのほうが私はびっくりするね」(p.243)
「そうだな、ポストが赤いのも、野球に延長戦があるのも、全部、おまえのおかげだよ」(p.249)
「言ってしまえばたいした内容ではないな。映画なら三十分もかからないで再現できる。漫画なら二ページもいらない」(p.250)
『ようするにアメリカがいけないんだよ。何でもかんでもアメリカだ。世の中の犯罪や生活の大半がアメリカ流で、事件を起こすのもあの国だ。そもそもコロンブスが大陸を発見したのがいけないんだな。恨むべきは、コロンブスの双眼鏡だ』(p.256)
「人が考えることはいつも理に適っているわけじゃない」(p.271)
「見栄や自尊心ね」「人が穴に落ちるときにはたいてい、そういうものが原因なのよ」(p.282)
「動物は強者に従うけど、人間は強そうな人に従うだけなんだ。絶対的な強さなんて分からないからね、強そうな人とか、怖そうな人とかさ、そういう、『強そうな』っていう幻想に騙されちゃう。」(p.326)
【102】せきしろ『去年ルノアールで 完全版』
去年ルノアールで 完全版 (マガジンハウス文庫 せ 1-1)
- 作者: せきしろ
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 2008/12/05
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私は今日もルノアールにいた。昼間から喫茶店で時間を潰しているだけの「私」。客や店員の様子を眺めるうちに、妄想を暴走させ、無益な1日を過ごしてしまう。妄想エッセイという新ジャンルを切り開いた、無気力文学の金字塔。「続・去年ルノアールで」を完全収録した待望の完全版! 解説/西加奈子。
読了後、まったくといっていいほど何も残らない。しかし、「最高」だ。
【101】村上 春樹『スプートニクの恋人』
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 講談社
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22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。それは行く手のかたちあるものを残らずなぎ倒し、片端から空に巻き上げ、理不尽に引きちぎり、完膚なきまでに叩きつぶした。―そんなとても奇妙な、この世のものとは思えないラブ・ストーリー。 (「BOOK」データベースより)
現実と夢のはざまで「ミュウ」と「すみれ」と「ぼく」はそれぞれ失ったものを探し求める。そしてそれはもう二度と戻らない。どこまでいっても満たされない喪失感漂う不思議な作品ですね。
【100】太宰 治『人間失格』
- 作者: 太宰治
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/01
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「恥の多い生涯を送って来ました」。そんな身もふたもない告白から男の手記は始まる。男は自分を偽り、ひとを欺き、取り返しようのない過ちを犯し、「失格」の判定を自らにくだす。でも、男が不在になると、彼を懐かしんで、ある女性は語るのだ。「とても素直で、よく気がきいて(中略)神様みたいないい子でした」と。ひとがひととして、ひとと生きる意味を問う、太宰治、捨て身の問題作。 (「BOOK」データベースより)
三昼夜、自分は死んだようになっていたそうです。医者は過失と見なして、警察にとどけるのを猶予してくれたそうです。覚醒しかけて、一ばんさきに呟いたうわごとは、うちへ帰る、という言葉だったそうです。うちとは、どこの事を差して言ったのか、当の自分にも、よくわかりませんが、とにかく、そう言って、ひどく泣いたそうです。(p.134)
「うち」とは、つまり、「あの頃の自分」なのではないでしょうか。彼は道化者としてみんなを欺いていたあの頃の自分に戻りたかったのです。自分を偽ってきた自分自身との葛藤や苦悩こそが人間の業であり、モルヒネ中毒に堕ち廃人になった自分は人間失格なのです。
「あのひとのお父さんが悪いのですよ」何気なさそうに、そう言った。「私たちのしっている葉ちゃんは、とても素直で、よく気がきいて、あれでお酒さえ飲まなければ、いいえ、飲んでも、・・・神様みたいないい子でした」(p.155)
きのう、テツにカルモチンを買っておいで、と言って、村の薬屋にお使いにやったら、いつもの箱と違う形の箱のカルモチンを買って来て、べつに自分も気にとめず、寝る前に十錠のんでも一向に眠くならないので、おかしいなと思っているうちに、おなかの具合がへんになり急いで便所へ行ったら猛烈な下痢で、しかも、それから引続き三度も便所にかよったのでした。不審に堪えず、薬の箱をよく見ると、それはヘノモチンという下剤でした。自分は仰向けに寝て、おなかに湯たんぽを載せながら、テツにこごとを言ってやろうと思いました。「これは、お前、カルモチンじゃない。ヘノモチン、という」と言いかけて、うふふふと笑ってしまいました。「癈人」は、どうやらこれは、喜劇名詞のようです。(p.149)エンディングにこの描写をもってくる太宰治。