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じんの読書ノート

まぁ、とりあえず本でも読みましょうか。

【5】北川 健次『「モナ・リザ」ミステリー 名画の謎を追う』

「モナ・リザ」ミステリー

「モナ・リザ」ミステリー

 モナ・リザのモデルは誰か?不気味ともいえる微笑の意味は何か?幻想的な背景は何を暗示するのか?…モナ・リザをめぐる7つの謎。そして、ついに封印を解かれた、驚愕の新事実!現代を代表する銅版画家が、美術家としての直観と常識を覆す斬新な分析によって、絵画史上最大の謎に挑む。表題作の他、光の画家フェルメールピカソ・ダリ・デュシャンの創造の秘密に迫る2作を収録。(「BOOK」データベースより)

 レオナルド・ダ・ヴィンチによって描かれたこの『モナ・リザ』は500年経った今でも魔性の微笑を浮かべている。それにしてもこんなに謎の多い作品も珍しい、というか不気味だ。私が子供の頃住んでいた家の壁にはなぜかこの『モナ・リザ』のポスターが貼ってあった。子供心になんて気味の悪い絵だろうと思うと同時に、得体のしれない魅力が漂っていたことも今となっては認めざるをえない。見たくないのに見てしまう。なぜが気になってしょうがない。人を惹きつける魔性の女性『モナ・リザ』。この絵に隠された謎とは一体なんだろう?

  1. モデルは果たして誰なのか?
  2. 描かれた時期はいつなのか?
  3. 絵の注文主は実在したのか?
  4. 背景に描かれた現実とかけ離れたような幻想的な風景は、何かの暗喩なのか?
  5. 下腹部が僅かに膨らんだ妊婦と覚しきこの女性の着衣が、なぜ黒衣の喪服であるのか?
  6. 口元に浮かんだ不気味ともいえる微笑の意味は何なのか?
  7. そもそも画家は、この絵に何を描こうとしたのか?

500年後の今も、ほとんどそれらの疑問は解明されていない。

 さすがに有名な作品だ、夏目漱石の「永日小品」の中にもモナリザが登場している。

モナリサの唇には女性の謎がある。原始以降この謎を描き得たものはダヴィンチだけである。この謎を解き得たものは一人もない。

作者の北川氏は漱石の口を借りたレオナルド自身の暗い自負の表出のようだと語る。つまり、「私が仕掛けたこの謎は永遠に解き明かされる事はないであろう」と。

レオナルド・ダ・ヴィンチ。彼は1452年4月15日深夜にフィレンツェ近郊、ヴィンチ村から2キロばかり離れたアンキアーノという土地の小さな平屋の中で生まれたとされる。この歴史上最も謎めいた人物は、父セル・ピエロと、カテリーナという女性との間に生まれた庶子、すなわち祝福されざる私生児であった。一過性の衝動的な交接の滴から生まれたと思われるこの知的怪物の幼年期は、悲惨にして哀れなものであったという。(p.31)

レオナルドは母カテリーナのもとで四歳まで育てられていたが、父セルは妻アルビエーラとの間に子供が出来ず、自分の後継者として育てるためレオナルドを無理やり連れ戻す。しかし、セルはレオナルドを公証人として後を継がせず画工の道に進ませる。いろんな憶測があるが作者はレオナルドが鏡面文字しか書けず、それが既に矯正不可能なまでに身についてしまっていたことが理由だと語っている。

さらに著者は語る。平成9年に神戸で起きた児童連続殺傷事件の犯人「少年A」と三島由紀夫レオナルド・ダ・ヴィンチの3人の共通点も指摘している。脳科学の視点からこの3人は前頭葉、とくに扁桃体に何らかの欠陥があったのではないかと推測している。

扁桃体は記憶を司る海馬に隣接した僅か15ミリほどの物質であり、ネガティブな無意識の記憶と深く関わっているという。扁桃体は「強い恐怖や不安の体験が記憶される部分で、心的外傷後ストレス障害(PTSD)のフラッシュバックは、ここから起こる」とあり、その部分は、例えば幼児期における母親の愛情が過度に欠乏していた場合などに未発達のままになるという。また、その異常さの特徴として、知能指数の高さ、刺激に対しての鈍感さ(逆にいえば、より強い刺激を希求する)、ホモセクシュアルへの傾向が見られる点などが挙げられている。(p.41)

少年Aの供述調書から、14歳にして既にダンテやニーチェを引用するという高い知能性。より強い刺激を求めるかのように、生首の変化に見入る光景。さらには犯行へと至る衝動下には、ホモセクシュアルへの発芽のようなものが見てとれるという。

三島由紀夫の小説『午後の曳航』はまさに、書かれてから30数年後に起きる現実の事件を不気味に予言したものだ。小説の中で作者の三島は、あるいは実際にその場に立ち会ったのではないかと思えるような描写で仔猫の内臓を切り開く場面があるが、少年Aも殺人に至る前に何匹もの猫を殺し、解剖を楽しんでいたという。

周知のように三島は幼児期に実母から隔離されて祖母の異常なまでの厳しい監視の中で人工培養のように育ち、レオナルドは四歳の時に母親カテリーナから強引に引き離されてしまっている。この点に関して、日を経て少年Aについて記した文献を調べていくと、彼もまた過剰なまでに厳しい母親の躾けの中で変則的に育ったという事実が見えてきた。つまりは、母親から受容すべき愛情の欠落という点が三者に共通して括られてくるのである。(p.46)

モナ・リザ』に戻ろう。よく見ると画面の両端に不自然な感じで石柱の部分らしきものが描かれている。かつての『モナ・リザ』は左右の両端が今よりも70ミリずつ広く、1800年、ナポレオン・ボナパルトが妃ジョセフィーヌのためにモナ・リザを飾ろうとしたが、用意した額縁のサイズが合わず、あろうことか絵の方を切ってしまったのだという。本当にびっくりだ。

他にも謎が山ほどある。『モナ・リザ』を反転してレオナルドの晩年の自画像を重ねるとピタリと一致するとか、背景の左が地球生成の光景で、右が終末の光景を暗示したものだとか、妊婦と喪服から生と死の暗示だとか、左手の人差し指の描写をわずかに未完成にすることによって、見る人の視線を微笑の方に注がせるためだとか。

さらに著者はこう語る。『モナ・リザ』こそレオナルド・ダ・ヴィンチそのものであり、彼自身「性同一性障害」であったと。本当にびっくりだ。(←本日2回目)