じんの読書ノート

まぁ、とりあえず本でも読みましょうか。

【68】中村 文則『銃』

銃

昨日、私は拳銃を拾った。これ程美しいものを、他に知らない-。銃に魅せられてゆく青年の心象と運命を、サスペンスあふれる文体で描く。第34回新潮新人賞受賞作、第128回芥川賞候補作。(「MARC」データベースより)

 

 「銃」という泣く子も黙るツール水戸黄門の印籠的な)を手にいれた(手に入れてしまった)男の破滅の人生。一人称で描かれる主人公の内面描写は圧巻。だいたい、死体よりも拳銃に興味がいっちゃうんだから元々クレイジーだ。そんなクレイジーな人間が危ない道具を手に入れたものだからタダじゃすまない。当然、うすうすは周りの人間もクレイジーな主人公の本性に気づき始める。しかし、主人公の心の声はいたってノーマルで自分のそれと変わりないところに、人間の内面と他者にさらされる外面とのギャップにハッと気付かされる。(おれもクレイジーなのか?)気がつけばうすら笑いしていたら末期です。

 

拳銃を使い、何かをする。そのことを可能にする今の現状が、何よりもよかった。私はそれを使って、誰かを脅すこともできたし、誰かを守ることもできた。人を殺すこともできたし、簡単に自ら死ぬことさえできた。その可能性を手中に収めたこと、その刺激の固まりこそが重要であり、実際にそれをするかどうか、したいかしたくないかは問題ではなかった。(p.21)