じんの読書ノート

まぁ、とりあえず本でも読みましょうか。

【46-1】司馬 遼太郎『竜馬がゆく(一)』

竜馬がゆく〈1〉 (文春文庫)

竜馬がゆく〈1〉 (文春文庫)

 

薩長連合、大政奉還、あれァ、ぜんぶ竜馬一人がやったことさ」と、勝海舟はいった。坂本竜馬は幕末維新史上の奇蹟といわれる。かれは土佐の郷士の次男坊にすぎず、しかも浪人の身でありながらこの大動乱期に卓抜した仕事をなしえた。竜馬の劇的な生涯を中心に、同じ時代をひたむきに生きた若者たちを描く長篇小説。 (「BOOK」データベースより)

 坂本龍馬さんにお会いしたことはありませんが、司馬遼太郎さんの描く竜馬がみんなが想像する坂本龍馬のスタンダードになっていることは間違いなさそうですね。当たり前ですが、とっても魅力的に描かれています。

 この第1巻では竜馬が19歳で江戸へ剣術修業に旅立ち、23歳で安政諸流試合にて桂小五郎と対戦するまでを描いています。

 坂本竜馬はいろんな人たちに出会い影響を受け、成長していきました。

 まず、この人との出会いがなければ、あの坂本竜馬は存在していないでしょう。

 〈坂本乙女〉・・・「坂本のお仁王様」の異名をもつ、竜馬の三つ年上のお姉さん。竜馬の幼少のころに剣術の手ほどきをしたのは彼女で、泣き虫だった竜馬を厳しく指導したらしい。竜馬にとってはさぞや恐ろしいお姉さんだったでしょうね。

 〈お田鶴さま〉・・・土佐の家老福岡宮内様のお嬢様で竜馬よりも身分が上だが何かと竜馬に世話をやき、しまいには夜這いに来なさいと誘う。なんとも羨ましい話だが竜馬は据え膳は食わないのだ。

 「お田鶴さま、いまのままでは日本は亡んでしまうと思います。なにをすればよい、とお思いですか」「むずかしい議論よりも、洋式の大砲と軍艦をたくさん造れば、あとは自然に道がひらけてくるとおもいます。ただその軍艦と大砲を幕府の腰のない役人にもたせるのはどういうものでしょう。いまの幕府では日本を持ちきれませぬ。坂本さま、みんなで倒しておしまいになれば?」(p.313)

 〈岡田以蔵〉・・・のちに人斬り以蔵とよばれ恐れられるがこの時はまだ無名の武士。竜馬とは同郷で顔見知りだったが大坂で竜馬とは知らずに金に困って斬りつけた。身分は竜馬よりもずっと下。その男に竜馬は有り金五十両の半分をあげてしまうのだ。間違いとはいえ自分を殺そうとした人間に酒をおごってお金まで与えてしまうなんて、お見事だ。

 〈寝待ノ藤兵衛〉・・・泥棒。以蔵との一件を一部始終みていて、竜馬という男に惚れてしまったから子分にしてほしいと願い出る。

 〈武市半平太〉・・・のちに土佐の吉田松陰とよばれる。剣の腕も一流だが学問にも秀でている。竜馬と同郷で身分も上。年齢も六つ上。江戸に入って鍛治橋の土佐藩邸にて竜馬の身代わりに「ふとん蒸し」の刑に処される。

 〈千葉さな子〉・・・竜馬が剣術修業にきた道場千葉定吉の長女。剣術は免許皆伝の腕前。竜馬にひそかに好意をもっており、ときにやきもちをやいたりする。

 〈冴〉・・・深川仲町の遊女。藤兵衛経由で仇討を竜馬に依頼する。御礼に身体で奉仕すると竜馬に懇願するがことごとく拒まれる。

 〈信夫左馬之助〉・・・仙台伊達家の浪人。冴の仇。仇討を引き受けた竜馬を付け狙うが返り討ちにあう。

 〈桂小五郎〉・・・長州藩士。竜馬よりも二つ年上。17歳の時、三つ年上の吉田松陰に師事。長州藩陣地に偵察に向かう途中の竜馬と相州の山中で剣を交える。

 「どうやら、拙者の眼のあやまりだったらしい。失礼しました。そこなる岩に腰をやすめられては、いかがです」「ありがとう」竜馬は、刀をおさめた。桂も脇差をおさめ、「拙者は、長州藩桂小五郎と申す者です」「ああ」竜馬は岩に腰をおろしながら笑いだした。「あなたなら、存じあげていた。私は土州藩坂本竜馬という者です。貴藩の益田越中どのに招かれ、剣術試合にまかりこしていた」「痛み入る」桂は、立ったまま深く頭をさげ、「おゆるしくださりましょうな。存ぜぬとは申せ、藩が招いた方を、諜者であるなどと眼違いしておりました」「いや、あやうかった。越中どのは、貴殿さえ御陣に立ち帰っておればやみやみと土州には勝たせぬと申されていたが、いまのすさまじさをみて、よくわかりました」「なにを申されます。武士が刀を折られるなどは、この上もない恥辱でござる。それよりも貴殿を諜者と間違うて成敗しようとしたこと、虫のよい申し分でござるが、御内聞にねがえまいか」竜馬がもし品川へ帰陣してさわぎたてれば、長州、土州の両藩の紛争になりかねない。当然、益田越中桂小五郎も窮地に立つことになるが、そういうことよりも桂は主家に迷惑をかけることを恐れたのであろう。竜馬は気の毒になった。気の毒になればつい言うことが行き過ぎてしまうたちの男なのである。「なに、御遠慮なさるな。わしは諜者よ」(p.201)

 〈岩崎弥太郎〉・・・のちに三菱王国を築く。牢屋の中で一緒になったキコリを師と仰ぎ算術と商法を学ぶ。のちに土佐藩の独裁者吉田東洋の門下生に入り、財務官として土佐藩の金銭をにぎることになる。

 「世の中は一にも金、二にも金じゃ。うちの親父もわしもわずかな賄賂がなかったために庄屋の鼻薬におどらされた郡代役所にとらえられたのじゃ。世の中は金で動いている。詩文や剣ではうごいちょらん。わしは将来日本中の金銀をかきあつめて見するぞ」「面白い」竜馬は、手をたたいて愉快がった。こんな武士を見るのははじめてだったからである。(p.364)