じんの読書ノート

まぁ、とりあえず本でも読みましょうか。

【38】アガサ・クリスティー『春にして君を離れ』

優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる…女の愛の迷いを冷たく見据え、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。(「BOOK」データベースより)

アガサ・クリスティーといえばミステリーの女王だが本作では誰も殺されないし、名探偵も登場しない。巧妙な殺人トリックも血なまぐさい演出もない。これは文学…悲劇。誰も幸せじゃない悲劇。これからもきっと幸せにはならない悲劇。

中年の主婦ジョーンは旅先で交通の不備により足留めを余儀なくされる。数日間、砂漠の中の宿泊所で退屈な時間を過ごす。ゆっくり自分の人生を振り返りながら徐々に自分のこれまでの言動に疑いを持ち始める。自分のしてきたことは本当に正しかったのだろうか?

人生とは何なのか?

幸せとは何なのか?

大切なものは何なのか?

偽りの人の世はあまりにも虚しい。