じんの読書ノート

まぁ、とりあえず本でも読みましょうか。

【35】西澤 保彦『神のロジック・人間のマジック 』

神のロジック・人間のマジック (本格ミステリ・マスターズ)

神のロジック・人間のマジック (本格ミステリ・マスターズ)

生徒はたったの6名で、実習の中味は犯人当て。アメリカ南部とおぼしき荒野のただ中にある謎の“学校”。やがて1人の新入生が“学校”にひそむ“邪悪なモノ”を目覚めさせてしまう。 (「BOOK」データベースより)

SFミステリーっていうんでしょうか、こういうタイプは。西澤さんの作品を読むのは初めてだったんですが他の作品も読みたくなりますね。中盤まで退屈で文章を読まずに眺めていたんですが、終盤にかけて、今までぼんやりしていたピントが内容とともにピタっとあってくると途端にページをめくる手が加速します。そして最後の衝撃。お見事です。

序盤での主人公の少年とお母さんとの会話が本作のテーマなのでしょう。

「そうよ。むちゃくちゃなの。いい、衛。わたしたち人間はね、自分が信じるものしか事実とは認めないの。たとえそれが嘘でも、ね。いいえ。極端なことを言ってしまえば、この世の中のすべては嘘なのよ。嘘だという言い方が悪いなら、なにもかも幻だと言い換えてもいい」「嘘とか幻とかって、何が?」「だから、すべてのものが」「すべてって、この世の中のすべて?」「そう。すべて嘘。そしてわたしたちはその嘘を真実と信じることで生きてゆける。例えば、人間は地球上で一番賢い動物だと言ってね」「それは嘘じゃなくて、ほんとのことでしょ。学校で習ったもん。万物の霊長っていうんだよ」「その言い方って、実は人間が地球上で一番弱くて愚かな動物であることを隠すためのもの。あのね、衛、ママは別に、嘘や幻だから意味がないと言っているわけじゃないのよ。神さまがいるかいないかって問題を考えてみて。世界のみんなが、神さまなんてどこにもいないって言えば、それはもちろん、どこにもいないんでしょう。神さまだって所詮、嘘であり幻なのよ。それは否定しない。でも、神さまは存在するんだと信じるひとたちもいる。そう信じてしまえば、科学のことなんか関係なくなるのよ。信じるひとたちにとって、神さまが存在することは真実であって、嘘でも幻でもなくなる」(p.71〜72)
学校の先生も言ってた。人類の歴史は戦争の歴史であり、その原因の大半は国家や民族の宗教上、信仰上のすれちがいにあるのだ、と。早い話が「おまえの仰ぎ見ている神とは、わたしの信ずる主なる神とはちがう」なんてくだらない理由で、ひとはお互いに殺し合いをするわけだ。両方とも所詮は嘘で幻なのに、自分のファンタジーに付き合ってくれないというただそれだけの理由で相手を否定し、抹殺しようとする。ひとは己れの幻を守るためには他人の血を流しても平気なわけだ。(p.73)

自分のファンタジー世界を守るために殺し合う…これが戦争。しかし、これは現実なのだ。嘘でも幻でもない。

この物語の舞台〈学校(ファシリティ)〉をあるものは『秘密探偵養成所』といい、あるものは『輪廻転生による前世人格再現能力の持ち主が集められた研究所』といい、いや、ここは現実の世界ではなく『データスーツによって映し出されるヴァーチャル・リアリティの世界』だというものもいる。つまり、そういうことだ。みんな自分の中のファンタジーを他者に強要しようとしていたんだ。

そして『あいつ』はやってくる。自分のファンタジーを台無しにした者を罰し、処刑するために。