【22】旦 敬介『旅立つ理由』
- 作者: 旦敬介
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/03/23
- メディア: 単行本
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政変でケニアに逃げてきたエチオピア人、ベリーズに流れ着いた上海娘、メキシコ湾岸に住む黒人奴隷の子孫たち…。アフリカや南米の、そのさらなる辺境に暮らすふつうの人びとの真摯に生きる表情と飾らぬ姿を簡潔に写し取りながら、現代の地球において、人はどういう理由で旅に出るのか、どうして故郷を離れることを強いられるのかを問う、21の短篇。主人公以外は日本人がほとんど登場しない、異色の日本文学。 (「BOOK」データベースより)
21の独立した短編集と思いきや…ところがどっこい、である。巧みに時系列をずらした構成の自伝的小説。こういう旅をしてみたいですね。
01.世界で一番うまい肉を食べた日
「彼」と「彼の息子」のイタリア旅行での話。フィレンツェのウフィツィ美術館まできたところでついに、息子はミケランジェロ・ツアーに飽きた。その後、ミケランジェロのお墓を見に行きたい父親と別行動となる。シニョリーア広場に一人残した息子が心配になり慌てて戻る父親に息子は一言「絵が、売れたよ」と言う。父親を待つ間スケッチしていた絵が売れたと言うのだ。この絵描きだらけのフィレンツェで。歴史的快挙に祝杯をあげる。
02.初めて見る異国の情景
ケニア人の父とウガンダ人の母の間に生まれた「彼女」は、ケニアのナイロビで外国人の男と暮らしていた。タンザニアの一部、ザンジバル島に二人で遊びに行った時の話。地元のタクシーの運転手やバーテンダーの「格調の高さ」に感動する「彼女」。
03.熱帯の恋愛詩
中央アメリカ北部、グアテマラから国境を越えてベリーズへ。カリブ海、首都ベリーズ・シティの「彼」のいきつけ(?)の中華料理店での話。上海娘の店主メイリー姉さんとエル・サルバドル男ミゲルの熱帯の恋愛詩。
04.どうしてジェラバを着ないのか
ジブラルタル海峡をフェリーで渡り、モロッコへ。ふらっと立ち寄った喫茶店で「彼」はアハメッドという青年とアルジェリア人歌手シェブ・ハリッの音楽と出会う。アハメッドは「彼」に民族衣装のジェラバを買わないかと薦めるが…。
05.カポエイリスタの日常
植民地時代のブラジルの首都だったバイーアで自称カポエイリスタのイザイアスは妻シキーニャと幼い子供二人とともに暮らしていた。カポエイリスタの仕事といえば観光客相手にホテルでカポエラショーをやるか、広場で投げ銭を集めるしかない。そんな中、いざこざが起きる。
06.マンディンガの潜水少年たち
メキシコの湾岸、ベラクルスの郊外にある集落マンディンガ。海水と淡水が混じるラグーンがある海産物の宝庫だ。「彼」は息子と一緒に十五年ぶりにメキシコを訪れ、旅の途中で耳にしたマンディンガのカキをとる潜水少年の姿を妄想する。
07.アフリカの流儀
ケニアとウガンダの国境の町マラバ。ナイロビからの列車はここまで。国境までの百メートルは徒歩で渡る。ケニア側からウガンダへ。「彼」はガールフレンドのアミーナとアミーナの女友達ナスィームの三人でアミーナの故郷への町へ向かっている。道中のウガンダの流儀に感心する「彼」。
08.初めてのフェイジョアーダ
ブラジルのバイーアにて。前々からナルヴァはフェイジョアーダを作る約束をしていた。ホーザが肉を担当。「彼」はナルヴァと豆の選別をする。総勢四十人の引越しパーティー。ナルヴァはこの時知り合ったアルゼンチン人とブエノスアイレスに旅立った。
09.ハンモックを吊る場所
ふたりは離婚してすでに一年ほど経つ。半年に一度は連絡をとって食事をする。ケニアのごちそうニョマチョマ(山羊の焼肉)を食べながら、「彼」は「彼女」にハンモックをどうしたか尋ねる。ユカタン半島の古都メリダのマヤ人、ファン・デ・ディオスを思い出す。
10.本当のキューバを捜して
キューバに行ったら、必ずアヒアコを食べようと「彼」はずっと思っていた。しかし、どこにもアヒアコを出すレストランはない。
11.逃れの町
アミーナがナイロビで子供を産んだとき、「彼」はバイーアにいた。
12.マリオのインジェラ屋
ナイロビにて。近所の飲み屋で知り合ったエチオピア人のマリオが道端に立っている。傍らにはインジェラ(クレープ状の主食)を焼く機械がある。これを持ってアディス・アベバからナイロビまでマリオの一家は逃げてきた。
13.昼食のゆくえ
スペイン北西端の町ラ・コルーニャから夜行列車に乗る。翌朝にはマドリード北駅に着くはずだ。列車の中で「彼」はカルロス、イザベル、マリルーの三人のガリシア人と出会う。スペインでは昼食が一日で一番大事な聖なる食事らしい。
14.ラ・プラタ遁走曲
ブラジルの入国審査で足止めをくう。日本人はコレラの予防注射が義務づけられている。そんな話は聞いてない。ビザもあるのに入国できないなんて。現場の手違いではなく、規則上は正しいらしい。
15.眺めのいい窓
ブラジルの貧民街ペロリーニョの「彼」の友達ルーカの店バンゾはロケーションがいい。バルコニー席の席料二万クルゼイロ。
16.アミーナの買い出し
ナイトクラビングが大好きなアミーナが「彼」のアパートに寝泊まりするようになって一週間ほどたった土曜日の朝宣言する。「I feel like cooking today!」
17.カチュンバーリの長い道のり
アミーナが料理を始めるとナスィームがやってきた。彼女は以前ウガンダの反政府組織NRAのゲリラ部隊で軍曹をしていた筋金入りの女兵士。除隊し難民としてナイロビにながれついていた。アミーナも同じ組織の兵士だった。カチュンバーリとは生野菜を塩もみして調理したもの、つまりサラダ。
18.キューバからの二通の手紙
キューバにて、「彼」は二通の手紙を預かる。ヨランダの手紙の宛て先は東京都内。ハナさんからの手紙の宛て先は長野。無事に届いているはずだが。
19.一番よく守られている秘密
六年ぶりのメキシコ・シティ。メキシコじゅうで一番ポソレの美味しい店に行きたい。その店は土曜と日曜にしか営業していないらしい。
20.父祖の地への旅
アミーナが外国人と結婚したことを報告に行く旅。ソロティからムコンゴーロまで車で三時間。
21.歩く生活の始まり
息子が一歳になり、「彼」ら親子三人はケニアからブラジルへ。