【8】パウロ・コエーリョ『ベロニカは死ぬことにした』
- 作者: パウロコエーリョ,平尾香,Paulo Coelho,江口研一
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2003/04/25
- メディア: 文庫
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ベロニカは全てを手にしていた。若さと美しさ、素敵なボーイフレンドたち、堅実な仕事、そして愛情溢れる家族。でも彼女は幸せではなかった。何かが欠けていた。ある朝、ベロニカは死ぬことに決め、睡眠薬を大量に飲んだ。だが目覚めると、そこは精神病院の中だった。自殺未遂の後遺症で残り数日となった人生を、狂人たちと過ごすことになってしまったベロニカ。しかし、そんな彼女の中で何かが変わり、人生の秘密が姿を現そうとしていた―。全世界四五ヵ国、五〇〇万人以上が感動した大ベストセラー。(「BOOK」データベースより)
パウロ・コエーリョといえば『アルケミスト』なんだろうけど、タイトルに惹かれてこっちの作品を先に手にとってしまった。
ベロニカは死ぬことにした。理由は二つ。一度若さを失ってしまえばあとはずっと下り坂の人生だから。世の中を変えることができない自分が無力だから。
本当か?
でも心の奥底には、まだ疑問がのこっていた。神が本当に存在したら?何千年という文明は、自殺をタブーとし、全ての宗教体系への侮辱とみなした。人は生きるために闘う。ひれ伏すためではなく。人類は子孫を残さなければならない。社会は労働者を必要としている。カップルには、愛が死んでからも、一緒にいる理由が必要で、国には、兵隊と政治家と芸術家が必要だ。(p.15)
死ぬことに理由なんてない。ただリセットしたかっただけさ、この世界を。
この貧困、不公平、強欲、孤独の混乱を創り出したのは神だ。神の意図が善きものであったことは疑いないけれど、結果は悲惨だった。(p.16)
ベロニカは大量の睡眠薬を飲んで自殺を計るが一命を取り留める。彼女が目を覚ました場所はヴィレットと呼ばれる精神病院。医者のイゴール博士に一週間の命だと宣告される。このヴィレットで彼女はゼドガ、マリー、エドアードという二人の女性と一人の男性に出会い、自分自身の人生を見つめ直すことで本当の自分を取り戻す。
人は狂うという贅沢を、そうできる立場にいる時だけ許す、のである。(p.96)
豊かな国ほど自殺者が多い。日本では年間三万人が自殺している。悩む暇があるほど豊かなのだ。貧困の中では生きることが全てなのに。
人は幸せであればあるほど、不幸せなものなんだ。(p.96)
「死を意識することで、より密度の濃い人生を送るよう力づけられることがある。」この作品こそがイゴール博士の論文なのではないだろうか。
まぁ、何はともあれホッとしました。心が締め付けられたままエンディングを迎えるのはツライですからね。
もし狂人が、このタイがなんのためにあるのかと聞けば、わたしとしては、べつに何の意味もない、と答えざるを得ないんだ。(p.108)
誰もがみな狂人かもしれません。狂人の世界の中に正気の人がいたら、狂人からみれば正気の人は狂人なわけで・・・。