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じんの読書ノート

まぁ、とりあえず本でも読みましょうか。

【3】百田 尚樹『永遠の0』

永遠の0 (講談社文庫)

永遠の0 (講談社文庫)

「娘に会うまでは死ねない、妻との約束を守るために」。そう言い続けた男は、なぜ自ら零戦に乗り命を落としたのか。終戦から60年目の夏、健太郎は死んだ祖父の生涯を調べていた。天才だが臆病者。想像と違う人物像に戸惑いつつも、一つの謎が浮かんでくる―。記憶の断片が揃う時、明らかになる真実とは。涙を流さずにはいられない、男の絆、家族の絆。(「BOOK」データベースより)

百田尚樹さんの作品を拝見するのは今回が初めてなんです。なので「ひゃくた」さんなのか「ももた」さんなのかも存じ上げないほどで、本屋さんの本棚で作者名「は行」なのか「ま行」なのか困惑していたら、なんと目の前にどっさり平積みされていたのだ!(←わざとらしい)

常日頃から鋭敏にアンテナを張り巡らせ、巷のホットな情報収集に余念がなく貪欲、かつ、流行に敏感なこの私は、初版2009年7月(単行本は2006年8月)、累積売上470万部のこの大ベストセラー小説を発売から約4年半もの間、図らずも書店にて熟成させ、手書きPOPをあまのじゃくに無視し、たまにその存在を横目でチラ見し、数々の困難を乗り越えやっと手中に収めたのだ!(←困難など何一つ無かった)

作者に対し右だ左だと議論が飛びかい、賛否両論あるこの作品のテーマは「生きる」である。「フィクションエンターテイメント作品としてただ楽しむ」、それだけでいい。しかし、近代戦争を舞台にした作品にエンターテイメント性を持たせるのはいかがなものか。こういったところが「特攻を美化している」「戦争賛美」といった批判を呼ぶのだ。作者自身はむしろ戦争反対を提唱している作品だと訴えているが、エンターテイメント性が強い作品だとも発言している。たしかにこの作品にはミステリーの要素もあるし、戦記物としての面白さもある。リアルな描写のうらには、実際、作者自身も相当な数の参考文献を読んでいる証しであろう。すなわち、一歩間違えればオリジナリティがないと指摘される可能性もあるということである。

それにしても、この本の売れ行きはハンパではない。ベストセラーを冷ややかにみる人々もいるが売れるのにも理由がある。作者の文才、努力の賜物に他ならない。多くの人がこの本を求め、涙し、日本列島を感動の渦に巻き込んでいる。泣かない奴は非国民である的な雰囲気の中、日本を元気にするためのゼロ戦神話が今の時代にマッチしたのか?この本が売れ続ける日本の状況を世界の人々の目にはどう映っているのだろう?何も気にすることはない。舞台は戦争だが、右も左もない。ここに存在するのは「愛」。そう、この作品はいろんな「愛」が散りばめられた作品なのだ。みんな「愛」に飢えているということだ。

 

<登場人物の紹介>

健太郎
26歳の司法試験浪人生。姉の慶子から戦争で亡くなった実の祖父のことを調べてほしいと依頼を受ける。
 
宮部 久蔵
健太郎と慶子の実の祖父。天才パイロット。終戦の数日前に神風特別攻撃隊員として戦死。享年26歳。囲碁が強い。誰に対しても丁寧な口調で話す。
 
慶子
健太郎の姉。駆け出しのフリーライター。藤木と高山の間で心は揺れる。
 
清子
健太郎と慶子の母。宮部久蔵の娘。慶子に「死んだお父さんて、どんな人だったのかな?」とつぶやく。会計事務所経営。
 
松乃
健太郎と慶子の祖母。清子の母。宮部久蔵の妻。
 
長谷川 梅男(旧姓 石岡)
元海軍少尉。当時の階級は三飛曹(当時宮部は一飛曹)。宮部とは昭和17年、ラバウルにて二ヶ月間共にする。健太郎のインタビューに対し、宮部について「海軍航空隊一の臆病者」とののしる。戦争で左腕を失っている。
 
藤木 秀一
かつて健太郎の祖父の弁護事務所でアルバイトをしていた。家業を継ぐため、司法試験を断念。優しくて誠実な男。
 
伊藤 寛次
元海軍中尉。宮部について、勇敢ではなかったが優秀なパイロットだったと語る。昭和16年、空母「赤城」にて宮部と出会う。階級は宮部と同じ一飛曹。真珠湾攻撃が宣戦布告なしのだまし討ちになったことを悔やむ。第三次攻撃を怠った司令長官南雲忠一中将を痛烈に批判。
 
高山 隆司
新聞記者。「特攻=テロ」と主張。健太郎のことを記事にしたがっている。バツイチ。
 
井崎 源次郎
元海軍飛行兵曹長ラバウルにて宮部の列機を務めた部下。階級は一飛兵(当時宮部は一飛曹)。宮部に二度命を救われている。宮部がトドメを刺したと思われたパラシュートで落下したアメリカ兵と後に再会している。ゼロ戦が高性能ゆえに無謀な作戦が立てられ、それを操る搭乗員のことが考えられていないことを非難。健太郎のインタビュー後の夏に亡くなる。
 
永井 清孝
元海軍整備兵曹長ラバウルにて整備兵として宮部と出会う。何よりも命を大切にし、たとえ臆病者と罵られようとも生き伸びようとした宮部がなぜ特攻に志願したのか疑問を抱いている。
 
谷川 正夫
元海軍中尉。上海にて宮部と出会う。ミッドウェーでの敗戦の原因は南雲と源田と発言。昭和19年、フィリピンにて宮部と再会。当時の階級は宮部と同じ飛曹長。特攻は命令ではない命令と発言。 戦後の民主主義と繁栄は、日本人から「道徳」を奪った。自分さえよければいいという人間たちが溢れていると発言。特攻を命じられたら、どこでもいいから不時着しろとアドバイスをくれた宮部自身がなぜ不時着しなかったのか疑問に思っている。
 
岡部 昌男
元海軍少尉。昭和20年、飛行科予備学生の時、教官として筑波に来た宮部と出会う。のちにロケット爆弾桜花の搭乗員となる。戦後アメリカ旅行の際、スミソニアン博物館に展示されていた桜花につけられていた「バカボム」という名前を見て悔しさと情けなさから声を上げて泣く。
 
武田 貴則
元海軍中尉。高山の新聞社に不信感を抱いている。健太郎のインタビューの際、同席した高山を怒りを込めて追い返す。当時、飛行訓練中に親友を失くす。精神が足らなかったから死んだと非難する中尉に対し身体をはって抗議した当時教官だった宮部を尊敬する。(このエピソードはこの物語の重要な部分である。当時その場にいた予備学生たちは宮部の為なら死んでもいいとさえ思った。)
 
景浦 介山
元海軍上等飛行兵曹。元やくざ。宮部について虫唾が走るほど嫌いな奴と語る一方、天才的飛行技術を持つ宮部に心底憧れていた。ある時、空中で宮部に勝負を挑むがあえなく敗れる。一年半ぶりに鹿屋にて変貌した宮部と再会、特攻にいく宮部の援護を命じられたが機体のエンジントラブルで出動できなかった。玉音放送を聞き、宮部を思い泣く。狂った世の中に復讐するためやくざの世界へ。
 
大西 保彦(旧姓 村田)
元海軍一等兵曹。旅館経営。鹿屋にて通信員を務めた。宮部が特攻する出撃の朝、宮部と一人の予備士官との飛行機の交換の場面を目撃している。宮部が乗るはずだった飛行機がエンジントラブルで喜界島に不時着したと語る。
 
大石 賢一郎
健太郎、慶子の祖父。松乃の夫。弁護士。筑波の航空隊で教官の宮部と出会う。飛行訓練中に亡くなった飛行学生に対して暴言を吐く士官に体を張って反論した宮部を尊敬する。その一月後、飛行訓練中に敵機の襲撃にあい、油断していた宮部を身体を張って救う。のちに鹿屋にて宮部と再会するも別人のように変貌した彼に驚く。宮部と同じく特攻を命じられ、出撃する直前、宮部に呼び止められる。「大石少尉、お願いがあります。飛行機を換わってくれませんか。」
 
何よりも生きることに執着した宮部が最期に大石に託した思いとは ・・・。